目の前には黒く長い髪をストレートに伸ばした日本人形のようなとても綺麗な、いや恐らくはとても綺麗なんであろう少女が蝶の絵柄の着物に身を包み正座をしていた。少し普通と違うのは―――既に自分の前にこんな少女がいるのが異様なのだが―――その少女は、二十畳はありそうなこの部屋の四方に立つ梵字のようなものがかかれた柱に囲まれた結界の中にいるということと、その瞳には同じく梵字のようなものが書かれた包帯がされているということ。

「さ、お嬢様の包帯を外してくださいな。」

 俺をこの部屋へと通した短い灰色の髪の眼鏡をかけたメイドの女性は何故か嬉しそうにそう急かす。

「目の包帯を外せばいいのか?」

 俺の問にゆっくりと頷くメイドの女性と日本人形のような少女。

 ここまで来てしまったのだから最後までのせられるのもいいかもしれないと思い、取り敢えずその少女の目の包帯を外すことにした。

「―――この日を」

 ゆっくりと包帯の戒めが解かれていく中、少女は幼さの残る中にも凛とし透き通った声を穏やかに発した。

「この日を一日千秋の思いで、待ち続けておりました。」

 その声はとても穏やかで、とても心地よくて、それになんというかとても、懐かしい。

「この瞳で、この部屋を、自然を、世界を、そしてあなた様を視ることができることをあなた様に感謝いたします。」

 包帯の戒めが全て解かれると、そこにはとても綺麗な漆黒の瞳が、その奥に紅の光を煌々と称えていた。

「すごく、綺麗だ・・・」

 その瞳に魅入られる。

自分でも無意識のうちにその少女の頬に手を当てゆっくりと撫でていた。それほどその少女は幻想的で、非現実的で、とても、美しい。

「嬉しい。あなたにそう言っていただけるのなら、私はとても幸せです。」

 不意に口をついてでた恥ずかしい言葉を受けて少女は恥ずかしそうに頬を染め、それでも嬉しそうにゆっくりと笑った。

 なんていうかこの瞬間、この時が、とても穏やかで、幸せに感じられる。

「あ、そういえば。まだ自己紹介してないし君の名前も知らないや。俺は―――」

「あなた様のことは存じ上げております。失礼かとは思いますが癒璃に調べさせました。」

「・・・え?」

 唐突な発言に俺は何も言葉が出なかったが、その少女の言葉を受けてメイド服の女性―――恐らくユリさんだろう―――が申し訳ございません、と頭をさげる。

「お嬢様があなたの事を知りたがっていたもので、つい調べてしまいましたわ。」

 メイド服の女性は茶目っ気たっぷりに舌をペロっと出しながら、実はそんなに申し訳なさそうに言う。

「ついって・・・」

「癒璃は悪くありません。私が、どんな方か知りたいとしつこく癒璃に言っていたので癒璃が気を利かせてくれたのです。」

「まぁ、やろうと思えばできるだろうし・・・そんなに気にすることではないけど。」

 申し訳なさそうに目を伏せる少女になんとなくそんな言葉をかける。最近個人情報とかいうものはだだ漏れなのだろうか。あまりいい気分はしないが、自分の情報といったって大したものがあるわけでもなく相手がこの少女と癒璃さんならまぁいいかなとも思える。悪用はされないだろうし。

 俺の言葉を受け少女は穏やかに笑うと自分の胸に手を当てた。

「ですから、私の自己紹介を。姓は御存知かと思いますが神凪、名を―――」

 その少女の声をさえぎるように突如天井の一角が崩れた。

「お嬢様っ!」

 癒璃さんの声が聴こえて、視界の隅になにか光るものが映った。それが何かはわからない、でも何か嫌な予感がした。

 だからかもしれない。体が考えるより早く動き、少女を守るように覆い被さって

「カ、は・・・・」

 自分の背中に何かとても鋭利なものが突き刺さった感じがした。

 世界が暗転する。そんな中、結局少女の名前が聴こえなかったなんてことが頭をよぎり、意識は完全に断絶した。

 

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